<京浜だより39> 巡礼地にある更生施設

阿部 慶太(フランシスコ会)

  生涯養成の一つで、会の創立者の生涯の現地学習というプログラムがあります。今回そのプログラムに参加する機会がありました。私はフランシスコ会という修 道会に属していますが、この修道会の創立者、アシジの聖フランシスコゆかりの場所がアシジのみならず、イタリア各地にあります。
  その中の一つ、イタリア・リエティ地方は「聖フランシスコの道」(Cammino di San Francesco d’Assisi)という巡礼コースがある場所で、週末などは多くの巡礼者を集めている場所です。
  その中でも、特に異色な存在感を持っているのは、ラ・フォレスタ(La Foresta)という巡礼地です。ここは、聖フランシスコが祈りすごしただけではなく葡萄の奇跡を起こしたといわれている場所で、多くの巡礼地がそうで あるように、閑静な環境にあり、祈りの雰囲気や尋ねてくる人々の敬虔な姿などは巡礼地独特の雰囲気があります。しかし、この巡礼地が他と異なるのは、薬物 中毒や社会的に問題を起こした人のための更生施設が併設されている点です。また、近年は一般の更生施設と異なる生活形態とプログラムがあることで知られて います。
  この巡礼地の運営スタッフであり、更生施設でリハビリと更生プログラムを継続しているのが、薬物中毒などで入所している人々です。フラ ンシスコ会の施設であるため責任者はフランシスコ会士ですが、巡礼者の案内、自給自足のための畑の作業、更生プログラムを運営するのは入所者なのです。畑 も巡礼所も入居者によってきれいに整備されていました。
  イタリアには、こうした自然に囲まれた更生施設がいくつか存在するのですが、巡礼地にあって巡礼所のスタッフまで勤めるケースは、おそらくラ・フォレスタくらいしかないのでは、ということでした。
  入所者の生活は、早朝の起床と祈りに始まり、内省、作業、祈り、巡礼所のスタッフは巡礼者の対応をし、夕方の祈り、分かち合いやミーティング、そして作業をと祈りをして一日が終わります。

  最低3~4年間はこうした生活をして、薬物中毒の場合ようやく試験的に社会に出る機会が与えられるそうですが、社会に戻っても大丈夫であるという確信が 得られない場合はさらに長期の入所をするそうです。多くの場合、入所者は6年またはそれ以上、この施設で生活します。また社会に出ても静寂を求めてこの施 設の生活を再びする人もいます。

  他の更生施設と異なるのは、まるで修道生活のようなプログラムのセンターでリハビリを行う点と入所を希望する人々が絶えない点です。好きで更生施設に入る 人はいませんし、リハビリ後は施設に戻りたくない、という人も多いからです。また、合理的に考えると薬物依存などは医療施設のほうが治療のためにはよいと いえます。ところが単に症状や依存症が改善されるのだけを目的としない点に惹かれて、この施設を希望する人が続いているのです。
多くのケースは、自分を変えたい、自分にはこうした祈りの中で自分と向き合うことが必要なんだ、というようにリハビリのほかに祈りの時間と祈りの雰囲気のあるこの場所を希望するケースです。こうした入所者のニーズに合ったのがこの巡礼地だったのです。
  ラ・フォレスタのケースは、何かの依存症を克服したり、問題を起こした人が社会復帰するために、単に医学やカウンセリング、更生プログラムだけで解決しないことや他の要素も必要であることを示しているといえます。
  こうした人々のニーズにこたえるものとして巡礼地が使用されているは意外でしたが、こうした巡礼地のような場所もふくめて、祈りの場である教会や修道院で、人々の苦しみにふれる宣教活動の可能性がまだあるのではないのか、と巡礼地にある厚生施設を訪れて感じました。

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