<京浜だより終> ドイツの宣教事務局を旅して

阿部 慶太(フランシスコ会)

  現在、修道会(フランシスコ会)の海外宣教委員会の仕事をしている関係で、ドイツのフランシスカン宣教事務局を視察しました。
  ヨーロッパのキリスト教国の中で、ドイツは世界中に宣教師を派遣している宣教大国の一つです。フランシスコ会のドイツ管区のドルトムントにある宣教事務局は、海外ばかりでなく国内の非キリスト者も含む宣教事務局として活動しています。
   また、Warlにある旧宣教博物館は、過去の宣教記録の宝庫であると同時に、長い宣教の歴史の積み重ねを展示物の中に見ることができます。アジア、アフ リカ、南米などのコーナーは、地域の特色や資料についてもわかりやすく分類説明されています。最近、財団法人として行政の管轄下に置かれ、フランシスコ会 の手を離れ民族博物館としてリニューアルしました。運営はフランシスコ会の手を離れましたが、館長とスタッフはフランシスコ会士が就任しています。また、 学校などの課外授業の場所としても利用されている地域にも根付いた施設です。

  この宣教事務局では、雑誌は年に4回発行、キャンペーンや展示などのエキシビションも数多く、プロジェクトのための資金集め、修道者の宣教体験プログラムや信徒のための体験コースを毎年企画して信徒の宣教体験の場を提供しています。
  海外の支援のほかにも、プロジェクトとして、無神論者への宣教プロジェクトがあります。これは、旧東ドイツは社会主義だったため、積極的無神論者が多い ためです。宗教税(ドイツは宗教税がある)を払うのがいや、カトリック教会の聖職者の性的虐待に幻滅して教会を去るなどの消極的無神論ではなく、神は自分 たちの生活に不要である、という積極的無神論の人々のために、宣教師として派遣されるのです。
  つまり、一つの修道会だけでも、宣教について専門の事務局や、宣教の資料を保存する博物館まで持って活動してきたわけです。ですから、他の修道会、宣教会 も同様に宣教師を派遣してきたことを考えると、ヨーロッパ全土から宣教地へ送られた人材、物資などを始めとする活動の規模が、いかに膨大だったかがわかります。
  ドイツはブラジル、アフリカ、アジア他の国々へ宣教師を派遣してきた長い歴史があり、宣教地での事業を長年にわたり行ってきた経験があるので、プロジェクトや活動内容は日本のレベルで比較できないものがありました。
  このように、宣教大国としての活動内容自体は変化が無いように思われますが、それを支える人材は大きく変化してきています。それは、国内の召命の問題です。ドイツも国内の司祭・修道者の召命は決して多くありません。日本同様、高齢化しているのです。
  そのため、宣教地で育てられた若い司祭や修道者(南米やアフリカの人々)が、かつて宣教師を派遣したドイツに派遣され教会、修道会を支える力になっています。宣教大国が、これから宣教地で築いた人材という財産によって支えられる日も近いかもしれないのです。
  さて、今回の視察で、宣教のスケールの大きさや活動範囲の広さに圧倒されたのですが、宣教事務局のスタッフに言われた「日本は全人口の1%クリスチャン がいるかどうかなのだから、非キリスト者への宣教の仕事がまだ残っているじゃないか。積極的にキリスト教を否定しないが、宗教に関心の無い消極的無神論と いうターゲットはたくさんあるじゃないか」という言葉が印象に残っています。現在、各小教区で行われている司牧もカトリック系の教育施設や福祉施設も、宣 教という位置づけでみると、まだまだやることがたくさんあるような気がします。今までの継続してきたことの中にもまだまだ宣教の余地や可能性があると感じ させられました。

【編集部から】
フランシスコ会の阿部慶太さんの連載「京浜便り」が、今号で終了します。 前身の「なにわ便り」から10年にわたる連載、ありがとうございました。
▲次号から、イエズス会社会司牧センターの関係者が交替で執筆するリレー・エッセイを連載します。身近な社会問題を、親しみやすい語り口でご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!

Comments are closed.