【 映 画 】『幸せの太鼓を響かせて~INCLUSION~』 /日本/2011年/ 106分

  大震災や原発事故の被害がいまだに復旧せず、日本社会が暗く沈んでいる今だからこそ、元気が出る映画が見たい。そんな思いで見に行ったのが、『幸せの太鼓を響かせて~INCLUSION~』です。たしかに元気が出て、幸せな気持ちになりました。
  この映画は、長崎県雲仙市の「瑞宝(ずいほう)太鼓」という、知的障がいを持つプロの和太鼓演奏グループの日常と演奏活動を描いています。彼らは、1978年から活動を始めた「コロニー雲仙」で暮らしています。
  「コロニー雲仙」は、いわゆる障がい者施設ではなく、障がい者がアパートや民家を借り、職業を持って、地域社会の中で自立した生活を送れるよう支援する 社会福祉事業です。入所施設も運営してきましたが、そこはあくまでも「通過施設」と位置づけられ、最終目標は地域で自立した生活を営むことに置かれまし た。30年間の活動で毎年、入所定員の12%を社会に送り出してきました。
  現在は入所施設を閉鎖し、地域で暮らす1800人の障がい者を支援するため、小規模多機能型の福祉サービスを展開しています(グループホームの運営、障 がい者が働くパン工房や給食サービスの運営、障がい者カップルの家庭生活を支援するヘルパー派遣など)。映画のサブタイトル「INCLUSION」とは、 「障がい者も社会から排除されず、社会の一員として地域の人と支え合う」という意味です。
  もちろん、こうした試みが最初から地域で理解されたわけではありません。グループホームの運営やアパート・民家への入居にあたっては、地域住民や大家さんからの反対にも遭いました。
  そんなとき障がい者たちがとった態度は、「住民に挨拶する」ことでした。挨拶されれば、地域住民も無視できません。一言二言会話するうちに障がい者と親しくなり、夕食のおかずを差し入れるようになりました。
  こうして、日本でも数少ない「INCLUSION」が徐々に実現されるようになりました。それはまさに奇跡でした。瑞宝太鼓を取材した知的障がいを持つ 映像制作グループの一人は、瑞宝太鼓の岩本団長(障がい者)から「結婚したくないか」と問われて、こうに答えます。「もちろん結婚したいけど、親が反対す るからあきらめている。親は、『自分がいなければ、この子はダメなんだ』と思っているようだ」。それに対して、岩本さんはこう話します。「障がい者として ではなく、一人の社会人として、親を説得していかないといけないね」
  たしかに、プロの太鼓奏者として、また父親として日々を暮らす岩本さんと奥さんの姿は、たくましく頼もしいものです。もちろん、ヘルパーさんをはじめ、 さまざまなサービスに支えられての生活ですが、親としての自覚やプロのミュージシャンとしての自覚がひしひしと伝わってきます。
  岩本さんの母親は、岩本さんが幼い頃に離婚して、姉と弟を連れて雲仙を去りました。岩本さんは施設に預けられ、父親はまもなく亡くなりました。岩本さん が結婚式以来、はじめて一人息子を連れて母親の家を訪ねるのですが、母親は「すっかり一人前の父親になった。幸せそうでよかった」と言って泣きます。そ う、障がい者であっても結婚して、自分の家庭を持ち、幸せに暮らすことができるのです。
  障がいを持つ彼らであればこそ、いっそう真剣に太鼓演奏に打ち込み、いっそう真剣に家庭を持つことを考えています。その真剣さを理解すればするほど、私 たちは障がい者を排除することはできません。それは外国人でも、野宿者でも、刑務所から出所した人でも、同じことです。さまざまな人を社会の一員として受 け入れることによって、私たちの社会はますます豊かになっていくのです。瑞宝太鼓の見事な演奏は、そのことを雄弁に物語っています。

【イエズス会社会司牧センター/柴田幸範】

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